省資源化だけじゃなかった!キュキュット「未来にecoペコボトル」開発の3つの壁
「ペコッ」とつぶせて、捨てる時にかさばらない――。食器用洗剤の「キュキュット」から9月、新たなつめかえ容器「未来にecoペコボトル」が誕生しました。つめかえやすさと耐久性を保ちながらボトルの肉厚を極限まで薄くすることに挑み、容器のプラスチック使用量を約40%削減*できたのです。
*容器の従来品重量比
新ボトルができるまでにはどのような壁があり、どう乗り越えたのか。特大サイズの開発を担当した、包装技術研究所の川上と森若に聞きました。
2040年「ごみゼロ」実現に向けて、つめかえ容器がさらに進化
――「未来にecoペコボトル」は名前の通り、「ペコッ」とつぶせますね。なぜ新しいボトルをつくることになったのですか。
森若:キュキュットの事業部から「つめかえ容器を新しくしたい」と相談があったのがきっかけです。「環境に配慮した製品を選びたい」という生活者の意識に応えられるような容器を検討しはじめました。
2018年、花王は包装容器のプラスチック使用量の削減と再資源化に努めていくことを宣言しました。事業活動で排出するプラスチック包装容器に関して、2040年までに「ごみゼロ」、2050年までに「ごみネガティブ*」をめざしています。
*花王のプラスチック包装容器使用量よりも、花王がプラスチック再資源化に関与した量が多い状態のこと
――洗剤のつめかえにはパウチもありますが、なぜボトルなのですか。
森若:僕らがこだわったのは「つめかえやすさ」です。衣料用洗剤と違って、食器用洗剤の本体は細長くてボトルの口が小さいので、パウチタイプではつめかえにくい。どうつめかえているのかを見るために、家庭訪問もしました。ボトルタイプだと、片手で本体を持ち、もう片方の手でつめかえ容器を持てるので、パウチよりもつめかえるのがラクなんです。
紙パックも検討しましたが、洗剤は何年も保管される可能性があるので、品質保証の観点から採用するのは難しかったです。行くべき道は「ボトルタイプの薄肉化」だと方針を決め、そこからはがむしゃらに、どれだけ薄くできるのかに挑みました。
開発の壁①薄くても、お客さまが使いにくいとダメ!
――新旧のボトルを持ち比べると、新ボトルはものすごく軽いです。
川上:重さは約半分になりました。森若さんの目標設定がすごすぎて、周囲から「無理だ」と言われ続けました。
森若:食器用洗剤の世界で、使いやすさ、軽さ、環境適性のトータルでパウチよりも良いつめかえ容器を実現することをめざしていたので、旧ボトルよりだいぶ軽くなっても「まだ俺たちがめざしているものになってない!」と言っていました。
――今回、特大サイズのボトルの素材をPETに変えたのはなぜですか。
川上:従来はポリエチレン(PE)で、分厚くてしっかりしていました。研究所の前任者が、ポリエチレンのボトルを薄くする試作もしたのですが、フニャフニャになってしまいました。ボトルをつかむと、中身の洗剤が出てきてしまう。だから先人たちの研究は参考にして、その道を行くのはやめようと。
森若:素材をPETにしたのは、ポリエチレンよりも薄くできるからです。一般的に、PETのほうがポリエチレンよりも強度があります。
――しかも、今回は100%再生プラスチック*(PET)を使っているのですね。
*ラベルフィルム、キャップは除く
森若:はい。再生PETはリサイクル原料なので、容器の生産・廃棄にかかるCO2の排出量が減ります。今回、特大サイズはCO2排出量の約47%削減*を実現できました。
*従来品比(通常品の1回使用分での比較)
開発の壁②薄くても、強度が足りないとダメ!
――従来のボトルは平らですが、新しいボトルはラベルの下にデコボコがたくさんありますね。
森若:強度を上げるための「リブ」です。スーツケースでも表面にデコボコがつけてあるものがあるでしょう。従来のポリエチレンのボトルは厚みがあったので、表面が平らでも強度に問題はありませんでした。でも、ボトルを薄くしようとすると、今度は強度が足りない。出荷や配送の際につぶれてしまうんです。
川上:試作を始めた頃は、求めている強度の半分しかなくて…。ここからが闘いでした。リブをどこに入れるのかを設計し、その強度をコンピューターで解析しました。ボトルの重量と肉厚は目標値を固定し、リブの形や位置の設定を変えながら、ひたすらシミュレーションを繰り返しました。
森若:今回のボトルになるまで、いくつ設計したんだっけ?
川上:82パターン考えて、100回以上解析をしました。
――82パターン?!
川上:はい。1カ所リブを入れて強くしても、別の場所に力がかかって変形してしまうんです。商品の出荷や配送時には、ボトルを詰めた段ボールが上に何段も積まれていきます。上からの重みが段ボールと中にあるボトルに加わるので、変形しない強度が必要でした。通常、同じ大きさで規則的にリブを入れることが多いのですが、キュキュットは楕円形のボトルなので、どこかに力が偏らないように、リブの長さや太さを調整しながら、全体を均等に強くしていく必要がありました。
森若:僕らはリブを「筋肉」と呼んでいます。1本1本の「腹筋」や「背筋」を鍛え、筋トレを重ねた「筋肉質」なボトルです。底にも放射状に入っています。
開発の壁③薄くても、工場で扱えないとダメ!
森若:この地道な設計と解析を川上さんがひたすら繰り返し、おおむね最終形状ができました。そこから金型を作って実際のボトルができたのですが、この後、最大のピンチが訪れました。工場の充填ラインでボトル同士がぶつかり、へこんでしまったんです。「そこがへこむのか~。“筋トレ”のやり直しだ」と気合いを入れなおしました。
川上:へこむ場所はわかりました。すぐ設計と解析をやり直して、金型を作り直しました。
――1回の解析に時間はどれくらいかかるのですか。
川上:解析の精度にもよりますが、1回6~7時間くらいです。複雑な解析をするときは、金曜の夜にコンピューターにかけて、月曜の朝に結果を確認するようなこともありました。
森若:当時、毎朝打ち合わせをしていたのですが、顔を見ると結果が分かりました。
――「できた!」という瞬間はあったのですか。
森若:研究所長の前で、川上さんが「アイデアが降ってきました!」と言ったことがあったよね。リブの入れ方のアイデアが「降ってきた」と。
川上:はい。82種類目で目標にしていた強度に達したから、83種類目をつくりませんでした。鍛えに鍛えたボトルなので、美しく見えます。でも、実は店頭に並ぶまで、心配で仕方なかったです。
――研究者としての夢を教えてください。
川上:「ecoペコ」という軽い容器ができて、他のメーカーさんも「花王がボトルを軽くしたから、うちも軽くしよう」と考えてもらえるような容器にしたい。「ペコッ」とつぶせるこの容器で、生活者の方々も意識を変えてもらえたらうれしいです。
森若:さまざまな設計上の制約がある中でも、プラスチック使用量の約40%削減*を実現しましたが、まだ改良の余地はあるんじゃないかと思っています。キュキュット以外の容器も薄くしたいですしね。
*容器の従来品重量比
編集後記
「未来にecoペコボトル」のプレスリリースを準備したとき、洗剤そのものが変わらないのに、ボトルの改良を発表するの?と戸惑いました。「ペコッ」とできるまでの苦難の道のりをお二人に伺い、納得しました。一人でも多くの人がボトルを手に取り、つめかえた後に「ペコッ」としてくれますように。
◆note「毎日の食器洗いで、いつのまにか節水に。」
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