誰でも簡単に“ちょうどいい洗剤量”で洗たくできる「ワンハンドプッシュ」の開発
「片手で簡単に計量する」をコンセプトに、2010年頃から開発が進められ、2019年新発売された“アタック ZERO”の容器として採用された「ワンハンドプッシュ」。キャップでの計量は不要! 片手でワンプッシュするだけで、ぴたり5gの洗剤が出るという画期的な容器です。
この容器が開発されたそのワケは? 長い歳月を費やした開発者たちの挑戦と、その裏にあった想いとは?
容器開発の担当者、包装技術研究所の湯田研究員に、直撃インタビューしました!
容器がコンパクトだから生まれたちょっとした不満
——ワンハンドプッシュが誕生する前は、お洗たくの洗剤容器にどのような課題があったのでしょうか?
湯田:2009年に発売したアタックNeoは、“濃縮液体洗剤”として、初めて世に送り出された衣料用洗剤です。洗剤成分を濃縮した分、1回あたりの使用量を減らすことに成功。それにともない、容器も大幅にコンパクト化しました。筒状の細長い容器は、置き場所に困らず、使い勝手もよいと、たちまち評判に。
その一方で、コンパクトだからこその不満のお声もあったのです。
「キャップが小さくて開けづらい」「キャップが小さいので、計量の目盛りが見えづらい」「洗剤が狙った目盛りよりも多く入りやすく、多く入った分を戻そうとすると、容器や洗濯機まわり、手が汚れてしまう」といったお声。「正確に計りとろうとすることが、そもそも緊張の瞬間となってストレス」というお声もありました。
キャップで計量するという今までの使用方法には、計量動作ひとつに、さまざまなお困りごとがあったのです。
——そうした課題を、どのように解消したのでしょうか?
湯田:これまで「①キャップを開けて」「②目盛りを見て計量し」「③洗濯機の投入口に入れて」「④キャップを閉める」という4つのステップで行なわれてきた一連の動作を、1つのステップで行なえるようにしました。
洗濯機の投入口を目がけて、片手でプッシュするだけで完了! 計量と投入がひとつの動作で行なえて、キャップの開け閉めは必要ありません。
しかもワンプッシュで5gという定量が出る設計なので、目盛りに集中するストレスがなく、洗濯量に応じて、1回プッシュ、2回プッシュというように、押す回数を増やすだけ。
老若男女を問わず、体が不自由な方も、簡単に、感覚的に、洗剤を計量していただけるようになりました。
軽い押し心地や洗たく機への投入のしやすさなど、使い勝手のよさを追求
——開発に際して、こだわったポイントはどこでしょうか?
湯田:こだわりポイントはいくつもありますが、おもに3つに集約できます。
①てこの原理で軽い押し心地
「片手で簡単に軽量できるようにしたい」との発想から始まったワンハンドプッシュの開発。シャンプーなどで使う“上から押すタイプ”のポンプの機構に、てこの原理を導入して、片手で持ったまま、軽い力で押せる設計に落とし込みました。
②狙った位置に投入できるよう、ノズルは動かない設計
シャンプーポンプのように、押したときにノズルまで一緒に下がってしまうと、狙ったのとは違うところに洗剤が出てしまう可能性があります。そこで、レバーを押してもノズルは動かない設計にしました。
③液だれしにくく、手につきにくい
ノズルの先端をラッパのような形にすることで、液切れをよくし、中の構造にも液だれしにくい設計を盛り込んでいます。さらに、洗剤が出るのと反対側を持ち手にしたことで、万が一、液だれしても、手につきにくくなりました。
いちばん苦労したのは、誰にとっても快適な“ポンプの押し感”
——開発には苦労も多かったと思うのですが、いちばん大変だったのはどの部分でしょうか?
湯田:ずばり、“ポンプの押し感”です。初めのころは、簡単に出せるようにしたいとの思いが強く、いかに軽く押せるかばかりをめざしていました。ところが、実際に使っていただきアンケートをとってみると、「ほんの少しの力で勢いよく洗剤が出てきて、怖かった」というお声が多かったんです。母にも使ってもらったのですが、同じことを言われました。
そこから、ちょうどいい押し感を探し当てることと、それを設計に落とし込むことが、本当に大変なプロセスでした。
長期にわたって使用していただいたり、ファーストインプレッションをうかがったり、実際にお洗たくをしていただく調査など、多岐にわたる方法で調査を実施。ときには、私がお宅に訪問して調査したこともあります。2019年に発売されるまでの開発中に、およそ延べ2800人もの方々にご協力いただきました。
実現できたのは、洗剤の計量にまつわるお困りごとの解消
——ポンプの構造にそれだけのご苦労があったとは…。今回、湯田さんが、ワンハンドプッシュを世に送り出すことで実現できたと感じているのは、どんなことですか?
湯田:いちばんは、洗剤の計量にまつわるお困りごとの解消です。ワンハンドプッシュの誕生によって、「洗剤の量を計るストレスがなくなった」「洗たくがラクになった」というお声をたくさんいただきました。また、高齢で目盛りが見えづらい、手指に力が入れにくいという方や、病気や怪我で目盛りが見えない、手先が不自由な方からは、「片手で押すだけで計量できるようになり、本当に助かった」というお声をたくさん頂戴しています。
個人的には、これまでお母さんの家事という印象の強かった洗たくを、家族みんなの家事に変えるきっかけのひとつをつくれたのではないかとも感じています。「子供が洗たくに興味を持ってくれるようになった」「夫が率先して洗たくをしてくれるようになった」といったお声も多かったからです。
私の息子も、「今日は何回プッシュするの?」と聞いてきて、洗たくを手伝ってくれるようになりました。おもちゃのような感覚だとは思うのですが(笑)、洗たくに対してポジティブなイメージを持ってくれたのは素晴らしいことです。
家族みんなで楽しく洗たくができる世の中に——。ワンハンドプッシュの開発が、その一助になってくれたとしたら、これほどうれしいことはありません。
洗剤の使いすぎはもったいない。“ちょうどいい”がいいワケ
——ワンハンドプッシュは、洗剤の使いすぎを防ぐことにも貢献していますね。
湯田:そうですね。従来のようなキャップ計量と違い、ワンハンドプッシュの場合は1プッシュで5gと出る量が決まっていて、洗たく物の量に合わせて、プッシュ回数で調節できるので、“ちょうどいい”洗剤量でお洗たくすることができます。
洗剤には適量があり、たくさん入れたからといってそれに比例して汚れが落ちるわけでもありません。また、洗剤を入れすぎると、すすぎの水も多く必要になります。
洗剤は必要な分だけ、ちょうどいい量を使うことは、汚れを落とすという意味だけでなく、環境や節約などのためにもいいことだと思います。
ワンハンドプッシュという、押すだけで5gという一定量が出てくるポンプの機構を作れたことは、無駄の軽減への貢献につながったのではないかと感じています。
今後は、地球環境のことを考えた容器を開発していきたい
——今は、このワンハンドプッシュの開発から離れて、また別の容器を開発なさっていると聞きました。最後に、湯田さんの今後の目標をお聞かせください。
湯田:日々の生活で使う容器のお困りごとを解消し、お客様に「この容器のおかげでラクになった」と感じていただけるものを提案していきたいです。
また、地球環境のことを考えて、無駄にならない設計をしていくことも目標です。こまかなことで、お客様には伝わりづらいところもあるかと思いますが、必要な材料が必要な分だけ使われている。そんな容器を開発していきたいです。
編集後記
花王は現在、持続可能な社会の実現に貢献する企業姿勢や取り組みを「もったいないを、ほっとけない。」というメッセージでお伝えしています。今回は、テレビCM「もったいなインタビュー」Tシャツさん篇・ソックスさん篇のテーマ「洗剤を使いすぎるともったいない」について、“そのワケ”を紹介しました。
今後も「もったいなインタビュー」と連動して、そのワケをお伝えしていきますのでお楽しみに!