花王とアスファルトの意外な関係…?「廃棄PET」で、耐久性が約5倍になるアスファルト舗装を実現
「花王製品」と聞くと思いつくのは、洗たく用の洗剤、シャンプーなど家のなかで使う“日用品”のイメージですよね。でも、実はそれだけじゃないんです。あまり知られていませんが、花王はいわゆるBtoB向けの化学製品も研究・開発しています。そのなかに、アスファルトに混ぜ込んで使う「アスファルト改質剤」があります。
今日はその、一見「花王っぽくない」、でも花王らしいこだわり満載の“アスファルト”にまつわるお話です。研究・開発担当の秋野雄亮に話を聞きました。
どうして花王が“アスファルト”を?
――どうして花王が“アスファルト”を?
秋野:そうですね、意外に思われる方も多いかもしれませんね。
でも、実は研究面からみると、“花王といえばこれ”というような洗剤やシャンプーなどの商品とちゃんと繋がっています。花王は長年、石けんなどの製品をつくるために、界面科学技術を磨き続けてきました。これを活かして化学製品でも、ほんの少し添加することでコンクリートの硬さをコントロールできるようにする製品などを実は開発しています。
知見や技術を駆使して、同じくアスファルトに関しても、道路業界からの様々なニーズに応える「アスファルト改質剤」を花王が研究開発している、というわけなんです。
「アスファルト改質剤」はまさに縁の下の力持ち!
――その「アスファルト改質剤」って一体何なんですか?
秋野:そりゃそうですよね(笑)なるべく分かりやすく説明しますね。
多くの方が「アスファルト」と思っている道路の地面は、正しくは「アスファルト舗装」と言います。
アスファルト舗装は、その95%が石や砂で、そこに5%のアスファルトを混ぜ合わせてできたものです。道路にもよく利用されているアスファルト舗装ですが、コンクリートと比較すると、荷重や経年劣化によってくぼみが発生するなど、耐久性には課題があります。
そこで必要になってくるのが「アスファルト改質剤」。販売する会社によって成分などは異なりますが、一般的に、これをアスファルトに混ぜ込むことで、舗装そのものの耐久性をアップさせることができます。「アスファルト改質剤」はアスファルト舗装を強く、より長く使えるようにするものなんです。
――まさに縁の下の力持ちですね!
今イチオシの「アスファルト改質剤」ができた!と伺いましたが?
秋野:はい!「廃棄PET」を原料としたアスファルト改質剤です。
これは、舗装に対して、わずか1%だけ配合するだけで、アスファルト舗装の耐久性を約5倍※向上させることに成功しました。
※一般的な舗装(改質II型)とわだちの深さを比較(30トンダンプ相当・水没時想定での走行試験)
原料は使用済みの「●●ボトル」
――廃棄PET?それって、使用済みのPETボトルのこと・・・?
秋野:その通りです。使用済みのPETボトルは、回収して再びPETボトルに戻す水平リサイクルの取り組みが進められていますが、PETボトルに生まれ変われなかったものは、姿を変え、衣類などの繊維になったりと、いろいろな形で活用されています。私たちが今回活用したのも、このPETボトルには生まれ変われなかった「廃棄PET」。
以前にも、使われなくなった廃棄PETの処理を目的として、アスファルト舗装内にそのまま砕いて混ぜ込む例はあったのですが、それでは廃棄PETの利用にはなるものの、舗装の耐久性向上にはつながらなかったんです。
でも、今回の「廃棄PETアスファルト改質剤」は違います!廃棄PETを活用しつつ、耐久性もしっかりアップする、というまさに“ポジティブリサイクル”が叶いました。
――廃棄PETを活用して、さらに耐久性までアップ・・・?そんな両立、できたんですか?
秋野:そう!そこが今回のイチオシ理由そのものです!
廃棄PETを有効活用しながら、舗装の耐久性も向上させる2つを両立できた製品なのです。
実は花王では、もともと別の原料を使って「アスファルト改質剤」を作っていました。しかし、“アスファルト改質剤も、より環境に貢献できる製品にしていけるのではないか”という議論がきっかけで、元の製品に一部構造が似ている「廃棄PET」を原料に置き換えられるかもしれない、ということで新たなアスファルト改質剤の開発がスタートしました。
――原料を廃棄PETに置き換えるのは相当難しかったのでは?
秋野:それはもう本当に大変で…。
廃棄PETにはPET以外の不純物が含まれているので、どのレベルまでならその混入を許容できるのかも調べる必要があり、廃棄PETそのものの研究から始まりました。
そして、耐久性アップのカギを握るのは、それぞれが違う性質をもった【石・砂】と【アスファルト】をいかにしっかり混ざり合わせる(親和性を高める)か。
そこに、この廃棄PETをどう生かせば、高いアスファルトの耐久性が発揮できるかを、根気強く、何度も性能評価を行うことで、課題を解決していきました。
さらに開発の過程では、物流を担当する社内のロジスティクス部門に協力してもらい、大型トラックが停まる車庫や駐車場でも実験しました。花王の物流拠点は全国にあるので、多くの場所で開発テストができたおかげで、スピーディーに製品化することができました。
多くの方の協力があって、ようやくたどり着いた、この「廃棄PETアスファルト改質剤」。
廃棄PETをただ砕いて入れるのではなく、特殊脂肪酸や特殊アルコール、特殊添加剤などを加えて化学反応させ、機能性のある新物質として生まれ変わらせている点が特長です。
あなたにも関係する?!アスファルト舗装が強くなるメリット
――アスファルト舗装の耐久性がアップするって、何かいいことがあるのでしょうか?
秋野:まず、とにかくアスファルト舗装が【長持ち】します。
無配合のものと比べて、この「廃棄PETアスファルト改質剤」を添加すると、舗装耐久性が約5倍※にアップするので、舗装面が凹みづらくなり、安全な車の走行にも貢献できると思います。改修工事の頻度も抑えられるので、これもまた長持ちのメリットですね。
※一般的な舗装(改質II型)とわだちの深さを比較(ニュートラック1%配合時30トンダンプ相当・水没時想定での走行試験)
あと、ドライバー(人)にとっても、いいことがあるんですよ。それは「アスファルト舗装の黒さ」。
「廃棄PETアスファルト改質剤」を添加したアスファルト舗装は、従来と比較して、より色が黒いんです。このため、ドライバーからセンターラインなどの白線がくっきりと見えやすくなります。
これらの特長が少しずつ伝わり、全国で「廃棄PETアスファルト」によって舗装された道路や駐車場も徐々に増えてきました。着々と輪が広がってきていて嬉しい限りです。
来たる“全自動運転時代”に向けて
――今後はどんな目標が・・?
秋野:道路は人とモノをつなぐ大きな役割があります。人間の体で言ったら、まさに血管。どこかが途切れたりしてしまうと、大きな影響が出てしまいます。私の今の仕事は、技術面から、アスファルト舗装の耐久性や安心・安全を維持し、社会貢献につながると思っています。
そして近い未来、全自動運転の時代がやってくると予想しています。そうなると、どの車も車輪が道路の同じところを通るため、どうしても“わだち”が深くなり、アスファルト舗装の劣化スピードも今よりも早まってしまうのではないかと思っています。だからこそ今以上に、道路の高耐久性が求められるようになるのでは、と思います。
“アスファルトを強くしたい”その想いはこれからも変わりません!
編集後記
花王は現在、持続可能な社会の実現に貢献する企業姿勢や取り組みを「もったいないを、ほっとけない。」というメッセージでお伝えしています。今回はテレビCM「もったいなインタビュー」のペットボトルさん篇、ローラー車さん篇のテーマ、「廃棄PETを有効活用しないともったいない」について、そのワケを紹介しました。
廃棄PETアスファルト改質剤など「花王ケミカル製品」についてはこちら
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