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「物流2024年問題」を乗り越える!次世代倉庫への想い

「物流の2024年問題」をご存知でしょうか? 2024年4月1日以降、働き方改革関連法により、トラックドライバーの労働時間が制限され、深刻なドライバー不足と輸送量の低下が懸念されている問題です。この事態を見据え、花王ではかねてより物流改革を敢行。2023年には、愛知県の豊橋工場に、物流業務の徹底的な効率化を図る次世代新倉庫を完成させました。今回は、その立役者の一人であり、花王の物流改革のキーパーソンである、SCM部門チーフデータサイエンティストの田坂を直撃!次世代新倉庫と、その先に描く物流の未来について聞きました。


グローバル物流の現場で試行錯誤を重ねた新入社員時代

<プロフィール>
田坂 晃一(たさか・こういち)
花王SCM部門 デジタルイノベーションプロジェクト チーフデータサイエンティスト

2007年、花王入社。ロジスティクス部門にて国内物流拠点の生産性向上のための分析やシステム開発などに取り組む。2017年、経済産業省に出向し、日本の物流政策の立案・実行に従事。2019年に帰任し、国内の物流拠点政策を担当。2021年にデジタルイノベーションプロジェクトの発足と同時に、チーフデータサイエンティストに就任。

——最初に、これまでの経歴を教えてください。

田坂:2007年に入社してすぐは、ロジスティクス部門に配属され、国内物流拠点の生産性向上のためのシステム開発などに取り組み、データエンジニアリングの基礎を学びました。その後、SCM戦略企画センターに異動となり、東南アジアを中心としたグローバルの物流拠点政策を担当。当時は英語がほとんど話せなかったのに、一人でいきなり現地に放り込まれたことも(笑)。試行錯誤しながら、現地で、日本とは違うグローバルの物流を学びました。

——英語が話せないまま、一人、海外に…?

田坂:はい。でも、人と話すことが好きなので、海外出張を重ねるうちに英語はだいぶ上達しました。人と話すと、多くの情報が得られますよね。日本でも海外でも、物流現場で働く人々と会話しながら、「本当に悩んでいることは何だろう」「本当に求めていることは何だろう」と、言葉の裏に隠れた“本質”を理解するように心がけています。期待値を超えるような提案をして、「生産性が上がった」「作業の負担が軽減した」と喜んでもらいたいのです。

本質を重視するあまり、ときにストレートに意見を述べて相手を怒らせてしまうこともありますが…(笑)。それでもよく喋り、よく動き、自分で責任を持つことを信条としています。

——もともと、学生時代から物流に興味があったのですか?

田坂:正直、大学に入るときは、地元の広島から出て、東京に行きたいくらいの希望しかなったのですが、たまたま専攻した流通情報工学が意外とおもしろくて。在庫設計をしたり、適切なサプライチェーンを構築したりするなど、単にモノを運ぶだけではない物流の奥深さを知って、夢中になりました。物流が華々しい表舞台の世界ではなく、“縁の下の力持ち”のような存在だったことも、魅了された理由かもしれません。

——しかしなぜ、物流会社ではなく、花王に?

田坂:“モノをつくって届ける”という、メーカーとしての物流をやりたかったのが大きいです。なかでも花王が提供しているような日用品は、生活者に受け入れられるリーズナブルな価格で届けられなければなりません。まさに、物流の真価が問われる分野です。当時から花王の物流は先進的だと言われていたこともあり、「物流をするなら、ぜひ花王で」と心に決めました。



人の手を一切介さない”完全自動化”のすごさとは

——愛知県の豊橋工場に、完全自動化した次世代新倉庫が完成しましたね。

田坂:豊橋工場では、現代の多様化するニーズにお応えするため、少量多品種の製品を生産しています。需要が高まっているこうした製品を必要なときに必要な分だけ、柔軟に、かつ効率的に、生活者の皆さまにお届けできる物流をめざして2023年に始動したのが、今回の次世代新倉庫です。
 
最大の特徴は、「製品の入庫から出庫までを完全に自動化した」ことです。ロボットや、無人搬送車などの先端設備を導入することで、これまで自動化が難しいと考えられていた工程でも、人の手を一切介さない“完全自動化”を実現しました。先日、物流展で講演をしたのですが、業界の注目度は非常に高かったです。

左:次世代倉庫内の様子 右:無人搬送車

——自動化が難しかった工程とは?

田坂:たとえば、無人搬送車へ荷物を積む作業です。違うサイズの荷物を荷崩れしないよう安定して積み上げるのは、繊細な作業であるため、人の介在が不可欠だと考えられていました。花王がこの工程を踏まえて完全自動化を成し遂げたのは、物流の世界においてとてもインパクトの大きなことです。

自動運転フォークリフトによる積み込みの様子

——この完全自動化は、「物流の2024年問題」の解決の糸口にもなりそうです。

田坂:私たちは、課題となっているトラックドライバーさんの荷待ち時間の短縮にも挑んでいます。荷待ち時間とは、トラックが倉庫に到着してから荷物を積み込むまでの待ち時間のこと。この時間を短縮できれば、トラックドライバーさんの限られた労働時間をもっと輸送に充てることができ、輸送量の低下が懸念される2024年問題の解決にも役立ちます。豊橋工場は、トラックが敷地内に入ると車両ナンバーを読み取る認証システムが作動し、積み込みをする次世代倉庫に到着するまでに自動で荷物が準備されます。これまで1時間程度かかることもあった工場内滞在時間は、約半分に短縮されました。



世の中を大きく変えるかもしれないチャレンジの過程は、失敗さえ楽しい!

——次世代新倉庫は未来的で、映像や写真を見ているだけでもワクワクします!

田坂:そう言っていただけるとうれしいです。豊橋工場でも、大変だった作業がなくなり、付加価値の高い仕事に集中できるようになったと喜んでいますし、トラックドライバーさんも、待ち時間が短くなったことを喜んでくださっています。昔からそうですが、人のためになることが私の仕事のモチベーションなので、感謝していただけるのは幸せなことです。

次世代新倉庫の稼働に向けては、約30人のプロジェクト体制を構築しました。プロジェクトメンバーたちが、ワクワク楽しみながら仕事をしてくれたのもうれしかったですね。実は稼働後に、不具合でロボットが動かなくなり、遅い時間まで人力で作業したことがあったのですが、「今、自分たちは、世の中のために新しい未来を築き上げようとしているんだ」と思うと、辛いはずの失敗さえも楽しく感じられました。



物流業界の未来をダイナミックに切り拓きたい

——今後は、この次世代新倉庫をどのように発展させる計画ですか?

田坂:今は、工場で生産した後のプロセスが稼働していますが、今後は、原材料のスムーズな調達や、製造計画との連動、全国の拠点との連携を加速させながら、これらを結ぶサプライチェーンのネットワークをつくりきることをめざしています。あくまで、今回の次世代新倉庫は、一つのモデル。いいところを生かしながら、進化させつつ広げていきたいですね。

——最後に、田坂さんにとって物流とは?目標にしていることも聞かせてください!

田坂:物流業界は、「2024年問題」など、ネガティブな話題のほうが多いと思います。しかし、サプライチェーン全体を最適化すれば、その世界観はがらりと変わる。今は、ちょうどその転換期です。制約が多く難しさもありますが、DX(デジタルトランスフォーメーション)化が進む物流は、ダイナミックでエキサイティング。物流の設計には、生産から販売までの知識が欠かせないので、自ずと会社や社会全体が見渡せるようになる面白さもあります。

私が常に志しているのは、会社の事業計画を推進し、裏でしっかり支えていける確固たるグローバル・サプライチェーンの構築に寄与すること。将来的には、花王の物流そのものを社会インフラ化して、世の中とつながっていく世界を築けるといいなと思っています。



編集後記

ひとたびスマホで注文ボタンを押せば、翌日には荷物が自宅に届く——
日々享受する豊かさは、物流従事者のみなさまに、大きく支えられているのだと再認識しました。物流話題に触れることで、当たり前への有難さを改めて感じることができました。
 
先の見えない今だからこそ、強い信念と行動力が、未来を切り拓くのだと感じました。
入社3年目の私には、田坂さんの夢を追うダイナミックさが、格好よく映ります。